「八正道」という人生の歩き方~自分の道をふみしめて~
【あゝ人生に涙あり】
「人生楽ありゃ苦もあるさ」
「涙の後には虹も出る」
「歩いてゆくんだしっかりと」
「自分の道をふみしめて」
皆さんごきげんよう。
この歌詞は、私が子供の頃好きだった水戸黄門のオープニングソングの一小節です。
勿論、曲も思い出補正がかかって懐かしい気持ちになって好きなのですが、お坊さんになった今聞いてもよい歌詞です。子どもにもわかるし、大人になれば更に共感できます。高齢になれば言わずもがな、です。
昔の歌というのは、今のように比喩表現なども使わず、ダイレクトに伝えてきます。人生経験を重ねて聞くと味が染みこんでくるような歌が多いですね。まるで禅の理解にも通ずるところもあります。
人生は楽しい事もあればつらい事があります。ジェットコースターのように上がったり下がったり大変です。
私一人の人生を振り返ってグラフにしても、なかなか平坦ではなく、上下を繰り返しています。個人差はあると思いますが、この人生の上下することは誰しも経験いたします。もし、ずっと平坦でおられる方は、それはよほどの鈍感か、悟られている方でしょう。
さて、お釈迦様はこの苦しみの原因は「満足できない」私の心が苦しみの正体だと考えました。結局、今が最高に幸せでも、永遠には続かないし、今がどん底だとしても、必ず日はまた登ります。人とは自分のすすむべき道があるから、どんな山あり谷ありの人生も地に足をつけ、歩めるのでしょう。
「歩いていく、しっかり地に足をつけ」でも何処に?自分の道って?
この疑問のヒントになるのが2500年前のお釈迦様の教えである「八正道」です。
お釈迦様は人間は生きる事、病気になる事、死ぬ事は苦しみであり、誰も避けて通れない、この無常に気づきます。
そこで「四諦」をお釈迦様がお悟りになられて初めての説法(初転法輪)にて明かしました。
これは苦しみの原因を解明し、解決、悟りにて苦しみから解脱する実践方法を説いたのです。四諦の中にある「道諦」の教えとして実践的方法「八正道」が説かれています。
【四諦(したい)】
1,苦諦(くたい) 人生は満足できない、思い通りにならないことによる苦しみであるという真理
生老病死など一切皆苦であると現実として、理解、実感する事。
2,集諦(じったい) 苦しみが起こる原因についての真理
苦しみの原因は煩悩(貪瞋痴)や執着といった事による原因によって引き起こされていると理解する。
3,滅諦(めったい) 苦しみの原因を打ち消し、苦しみが生まれない悟りの状態(涅槃)
煩悩や執着は断ち切る事ができ、すべての苦しみから解放された境地(涅槃)が存在するという真理
4,道諦(どうたい) 苦しみを打ち消す為の実践修行についての真理
苦しみをなくす理想の境地に至る為の具体的な実践方法。「八正道」の教えなど
それでは今回の本題「八正道」の説明です。
八正道~満足できない苦しみから離れる実践論‼~
⑴正見(しょうけん)~あなたの見ている世界が全てではない~
自己の価値観を基準とした見方ではなく、俯瞰性を保ちながら、物事の真理を追究して見る事。
⑵正思惟(しょうしゆい)~貪瞋痴の三毒に気づくのだ~
煩悩や執着する心に気づき、一呼吸して、よく考え、判断する事。怒りや欲望に振り回されない思考。
⑶正語(しょうご)~言葉には「言霊」がある。気をつけて~
嘘、悪口、陰口、噂話などの負の因果を離れ、施しの言葉で正しい因果を巡らせる事。
⑷正業(しょうぎょう)~駄目なものはやっぱり駄目なんです~
人に迷惑や害をなす行為は慎みます。殺生や盗みなどはもってのほかです。正しい行動を心がけましょう。
⑸正命(しょうみょう)~世の為人の為になる命を全うしよう~
社会の道徳やモラルに反する生き方を選択せず、人の為になる仕事や生き方をしよう。
⑹正精進(しょうしょうじん)~努力は必ず報われるとは限らないぞ~
その努力は正しい努力なのか、よくよく考え、先生、師匠、独学にせよ、方向をしっかり定めて努力をすること。
⑺正念(しょうねん)~自分をまずは知らねば何もきづかないよ~
自分の思考、呼吸、身体、心を観察し、マインドフルに気づきを保つこと。
⑻正定(しょうじょう)~止まらないと心もとまらないよ~
坐禅や瞑想の実践の行を通じ、心静かに、正しい姿で精神統一をすること。
以上が「八正道」の簡単な説明になります。
八正道はそれぞれ、独立した8つの道を連想されている方もいらっしゃるかもしれませんが、この8つの「正道」は8つで一つの実践になります。どれか一つでもかけると、道程に霧がかかり、歩くのが困難になります。全てが、丸い円のように連なり、相関関係で変化し、形を変えます。
例えば正見がなければ、正精進はできません。正思惟がなければ、正業、正命の実践はやはりできません。このように、八正道は互いを干渉しつつ、支え合うように成り立っています。
この8つの実践を正しく修行する事によって、苦しみの正体に気づき自覚し、苦しみに対処し、苦しみを緩和、更に歩みを深める事で、苦しみの見え方そのものが変わっていくのかもしれません。
八正道は、人生を「正しく生きるための八つのルール」ではありません。
八正道の教えから自分の進むべき一本の道を、迷わず歩み続ける為の八つの支えです。
楽しい日もあれば、悲しい日もある。歩けずに立ち止まる時もある。
それでもまた歩き出す。
水戸黄門の歌詞にも、お釈迦様がお示しくださった歩み方と多少なりとも重なる響きを感じます。
「歩いてゆくんだ、しっかりと。自分の道をふみしめて。」
住職 慧嶽 匡宏 合掌

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